大河氏は私の羊飼い

このブログはフィクションであり、実在する大河氏とその周辺人物にはいっさい関係がない。

大河氏ら、渋谷と対峙する 第2章

 

かくあって(前項参照)タピオカを目指して渋谷を奔走する運びとなった大河氏らであるが、こういった場合はその無計画さゆえになにかと無駄な時間を費やしがちで、大河氏らもその例外ではなかった。

 

 

昼食をとったイタリアンの店を出て、道玄坂を背に地図の示すタピオカの店舗を目指した。道玄坂を下りながら、大河氏は隣にいるのが左江内氏ではなく黒髪の乙女が良いのに、そして時間帯が朝早くの時間であればもっと興奮しただろうに、と妄想した。ちなみに左江内氏も隣に歩く大河氏に対して同じ思いを持っている。

 

 

 

目指していた店舗はそう遠くはなかった。都会というものは地名の示す範囲がとても狭く、密度が高い。伊勢原はどこまでいっても伊勢原であるが、都会を歩いていると数分も経たないうちに別の地名が出てきて混乱する。

 

 

 

大河氏と左江内氏は客の列が店舗から溢れている光景を見かけた。なるほどここが目指していた店舗のようである。よく見ると、客はほとんどが女性、それもキラキラ族の出身であることを誇示するかのようなオサレな服や鞄を身にまとっている。大河氏は絶句した。そして、我々のような見窄らしい者の入店は禁止されているのだろうと思った。長年の経験から培われた自尊的卑下直観力が発揮されたのである。自尊と卑下は一見すると相反する単語であるが、「自尊感情が傷つけられないための、自分の客観的評価を低めに見積もることで自分の行動を抑制しなければならない状況を冷静に見極める能力」と捉えてほしい。

 

 

 

 

 

 

大河氏と左江内氏は店舗から離れた。左江内氏にも同じ直観力が培われていた。この点で大河氏は左江内氏を信頼している。

 

 

 

その後も何度か店舗に向かって歩いていくのだが、キラキラな行列を見ると猛烈な畏怖を感じ結局何事もなかったかのように店舗の前を通り過ぎてしまう。我々のこんな無様な姿を見たものがいないものを祈るべきである。強いて言えば、ナヨナヨ族の者でも入店がたやすい雰囲気を整えておくべきである。その方が売り上げも伸びるであろうからアドバイスしておく。

 

 

何度か繰り返すうちに大河氏は疲弊した。そして計画の頓挫を悟った。

 

 

 

しかし、左江内氏は諦めていなかったのである。

 

左江内氏は、もう一度入念な計画を立ててから実行しようと言った。左江内氏は阿呆であると大河氏は思った。そして、左江内氏を渋谷に残して帰宅しようとしたその時である。

 

「お前はタピオカに敗北したままで満足か。我々のようなナヨナヨ族はいつも敗北の責任を自分以外のものに押し付けようとする。ここで自分の殻を破ろうとは思わんか。タピオカをたしなむ権利のないものなどいないはずである。我々を笑うものは笑わせておけ。見えない敵を相手に自分の意思を曲げることなどあってはならないのだ。精神的に向上心のない者は馬鹿だ!!」

左江内氏の熱弁であった。気づけば大河氏は圧倒されていた。心の中に燃えるものがあった。

 

 

 

大河氏らはラーメン店で作戦を話し合った。もちろん目標は窃盗でも異物混入でもなく単なる購買であるため特別な行動が必要であるわけではない。必要なのは強い心持ちである。大河氏のなかでは目的はもはやタピオカをたしなむことではなく「見えない敵に勝利すること」であった。

 

 

 

大河氏らがラーメン店を出た時、時計の針は午後6時30分を指していた。2人はこれが最後の挑戦とすることを約束し、タピオカ店を目指した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く