大河氏は私の羊飼い

このブログはフィクションであり、実在する大河氏とその周辺人物にはいっさい関係がない。

大河氏ら、渋谷と対峙する 第3章

 

 

 

ナヨナヨ族の葛藤とささやかな喜びを描いた衝撃の三部作もついに最終章を迎える。ご高覧の読者諸賢に感謝を申し上げます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最後の挑戦である。そもそもこれまで失敗を続けて来たのはタピオカ店のキラキラな雰囲気に呑み込まれてしまうからである。この課題をなんとか克服しなければ成功はない。

 

 

 

 

 

大河氏らが到着したころには店舗は大変混み合っていて、店の約50メートル先まで列が伸びていた。これは大河氏らにとって幸運であった。いきなり店舗の中に入るよりも精神的負担は軽く、タピオカを目指していることをあまり実感しなかった。左江内氏は「なんだかこのままいける気がしますなあ」とニヤニヤしながら言った。

 

 

 

 

 

だが、ここで最初の試練が訪れる。店員が混雑緩和のために、並んでいる客の注文をあらかじめとっていたのである。前に並ぶ女性2人組が注文している間、大河氏は猛烈に憂鬱な気分になった。というのも、大河氏らはタピオカの種類やら味やらを何も存じあげないので、店員に「どうしようもない奴らであるなあ!」と呆れられてしまうことを恐れたのである。

 

一方の左江内氏は熱心に他の客が注文する様子を観察していた。やはり彼も少しでもタピオカに暁通するものであると思われたいのである。

 

 

大河氏はこんな情けない左江内氏の様子を見て、些細な見栄を張るような真似をせずに、わからないならわからないなりに堂々としていようと誓った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気づけば大河氏らは注文を済ませていた。大河氏はどの商品を注文したのか覚えていない。ただ店員の訳のわからぬ説明に適当に頷いていたのだろう。店員から渡された控えにはいちばん基本的なものと思われる商品の欄にチェックがついていた。

 

 

 

 

 

第一関門を突破した大河氏には想像以上の手応えがあった。やはり、わからないならわからないなりにどうにかなるのである。一方の左江内氏も同じように来るべき不安要素にたいしてやや希望的になっているようであった。

 

 

 

 

 

列は進み、大河氏らも店舗の中に入った。やはり店舗の中は女性とその恋人と思われる男性にあふれていて、大河氏と左江内氏のようなむさくるしい風貌の者がいるはずはなかった。大河氏はやはり店の外に出たくなったが、ここで逃げ出してしまえば逆に恥をかくこともまた理解していた。そして、今さら風貌を変えることなどできないのだから、どうせであれば雰囲気だけでも堂々としていようと2人は約束した。

 

ここまで来て恥を全面に押し出しているようでは悪目立ちしてしまうであろう。よく考えれば、この店舗にいる客とはおそらく今後の人生で2度と顔を合わせる機会がないのだから恥ずかしがる必要性がないのである。

 

 

 

大河氏は強気であったが、待っている時間はそれまで以上に長く感じられた。聞こえてくる全ての声が自分への悪口に聞こえた。しかし大河氏は耐えた。これが自分の成長につながると信じて疑わなかった。

 

 

 

 

 

やっとの思いでカウンターまでたどり着いた。店員は爽やかな青年男性であったが、顔の端正さでは自分が優っていると大河氏は感じた。それと同時にそんなことを考えている時点で自分はこの店員に敗北したと感じた。そんなことが悟られぬよう素人然として支払いを済ませ、商品を受け取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大河氏は左江内氏とともに店舗を出ると、言い表すことのできぬ開放感に襲われた。口にしたタピオカはタピオカの味というよりも歓喜の味であった。タピオカ自体が世間で叫ばれるほど美味しいとは感じなかったが、大河氏はとにかく自分の成長を喜んだ。この開放感を味わっていると、これまで散々葛藤してきたことがなんだか阿呆らしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてやはり、大河氏は他の事物を過大評価する癖は治されるべきであるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

偏見愛好家